『琉歌の表現研究  和歌・オモロとの比較から』(森話社、2015年)が出版されました

yana スロバキアから間宮ゼミの留学生ヤナ・ウルバノヴァーさんが、法政大学に提出された博士論文をもとに、『琉歌の表現研究  和歌・オモロとの比較から』(森話社、2015年)を出版されました。

 色鮮やかな紅型の表紙カバーがまず目を引きますが、帯カバーに記されているように、「沖縄独特の叙情歌である琉歌の表現を、日本の和歌や沖縄の古謡・オモロと比較」し「膨大な歌数を対象にした調査を踏まえ、琉歌はオモロから発生したという定説に対し、和歌表現の強い影響下で成立した可能性を指摘した」、大変地道な研究の労作だと思います。

 図書館でいつもデータベースに向かって調査に勤しむヤナさんの姿をお見かけし、その熱心さに驚き、尊敬していましたが、まさに実証的に、日本の和歌と琉歌の表現を比較し、図表などによって、明晰な分析と簡明な文章で解りやすく論じられています。日本の和歌ですら、古典語の意味は解りにくい上に、さらに古い沖縄のことばと比較することを、外国の方でもありながら、ことばの比較だけではなく、文学作品としても読もうとする姿勢から、現代語訳も付けられています。

 従来の、琉歌はオモロの影響を受けて成立したという説をくつがえす、和歌に由来することを論じた実例を挙げてみましょう。枚挙に暇はありませんが、第二章「「影」をめぐって」では、『琉歌全集』(六二)『古今琉歌集』(一五五)と『栄花物語』の和歌を比較し、

   照る月かげに        月影に
   色やます鏡         照りわたりたる
   みがかれて咲きゆる     白菊は
   菊のきよらさ        磨きて植ゑし
   しるしなりけり

 両者の共通表現と類義語の対応が鮮やかに見てとれ、平安和歌を改作したものであることが推定できます。実際には、室町時代や江戸時代成立の『類題和歌集』『明題和歌集』『題林愚抄』など、古歌を歌題別に分類収集した歌集から学んだと考えられることも検証されています。ぜひ多くの方々に、本書から数々の驚きを実感して頂きたいと思います。
 あとがきで、日本滞在中に起きた東日本大震災について、みんなとともに悲しみ、恐ろしい思いをされたことにも触れておられますが、指導教授の間宮先生や先生方、学友などにも励まされ、研究を続けられたこと、本当によかったです。ヤナさんは、四月にはスロバキアに帰国されるとのことですが、今後も素晴らしい研究を続けられることと思います。

山崎 和子(本学兼任講師)

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